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立つⅡ

前の日記より

私は一瞬父が脳裏をよぎった。

父が脳出血で倒れたのは一ヶ月ほど前
命は取り留めたものも、下半身は全く動かず、起き上がることすらできず。
「運動も食事制限もこれだけがんばったのに・・」駆け付けた私に絶望の涙を見せた。
楽観的な父だが、ここまで弱気な父は初めてだった。
「また子供たち小大好きなお散歩をするためにがんばって!」そんな励ましも「いいよね。健康な人は」と、まるで駄々っこの子供だった。

 

私は持ってきた娘と息子の頑張っている姿を見せたくてある動画を持ってきた。
父は音楽が大好きで、娘の演奏を聞いてもらいたいな~と思っていたのだが遠いし、娘がもっと上手になってからのお預けで、まだ演奏会に誘った事がなかった。
父が倒れた時に、こんなことになるなら、招待しておけばよかった・・と悔やんだ。

 

でも悔無事はまだしたくない!演奏会に来てもらうんだ!
私は娘たちの学校の演奏を父の耳元で流した。
父はなんども涙を拭いて、「Lちゃんの演奏を聞きたかったな・・」と言った。
「何言ってるの!お父さん聞きに来てよ!!」と言った。
「お父さん、それを実現するには毎日のリハビリだからね!!」
「約束しないと私帰らないよ!!!」と。
「分かった分かった・・」父はまた涙を流して約束してくれた。

 

あの日から、私はまだ父のお見舞いに行っていない。
その代わりに、約毎日父とメールのやり取りをし始めた。
さいしょは一言だった文字が、だんだん文章になってきた。

そのうち平仮名から漢字へと変換されるようになってきた。
私は、まるで母であるように「今日もリハビリがんばったの!?花丸♪」
と、そんな文章を送り続けた。

父のメールは、初めは「がんばりました」という内容から「今日もがんばるぞ!」という朝メールもくるようになった。
「すごい!今日もがんばるの!みぃちゃんやじょ~くんも今日も頑張っているよ~!」と。
そんなやり取りが続いた。

ある日のメールで「ふわちゃんのメールは本当に勇気をもらえるよ!ありがとう。」とそう書いてあった。電車で読んで目頭が熱くなった。でもまだ泣けない。

 

「そうだよ~!Lちゃんも、じぃが演奏に来てくれる日を楽しみにして辛い練習を頑張っているんだ!」と返事した。
そんな父とのやり取りをする日々だったが、私たちがくじけてしまった。
私は頑張っている父にとても申し訳なくて、そしてとても悔しい思いになった。

と・・・母からのメールに気がついた。
母からはちょっと珍しいな、と思って読むと、いつもののんきな母ののんきな文面だった。

「今日、リハビリに行ったら、じぃが立ってたよ!リハビリの力ってすごいねぇ~♪」と。
そして一緒に貼り付けられていた写真は、一ヶ月の自暴自棄の父とは全然違う父だった。

 

私は涙が止まらなかった。
今日は私がくじけそうだった。
教室でも、部活でも行き場所がない娘は本当に頑張っていた。
物がなくなるから嫌だと、荷物を毎日持ってきて、その重い荷物で彼女の肩はカチカチだった。
それでも彼女は笑顔で通っていた。その娘の心は今折れかかっていた。

 

そんな強い娘の心が折れているのを認めたくなくて、怒りでその怒りを娘にぶつけたけど、
つぶされそうなのは私の方だった。
かわいい娘を傷つける人は許せない・・・。
今日ばかりは 辛すぎた。

 

でも神様は、見捨てないのだな。
こんな辛くて折れそうな時に、父が立ってる姿。
細くてよわよわしい足で立っている父は、とても強く見えた。

 

悔しさを楽器にぶつけて練習していた娘の所へ行った。
「ねぇ~こんなメールが来ていたんだけど。」と
私は無表情で差し出した。
娘はその写真をみた瞬間顔がゆがんだ。

「じぃじが・・・立ってる・・・。じぃじが立ってる・・・」娘の目からはその言葉が言い終わる前にすでに涙が溢れていた。
私ももう堪えられなかった。
「Yじぃ、毎日頑張ってるんだよ。みぃちゃんが毎日じぃじががんばって演奏を聴きに来てくれるために、あの運動嫌いのじぃじが、リハビリがんばっているんだよ!!」と。
もはや、私の言葉はもう必要なかった。

 

運動おんち、虫嫌い、そして涙もろい。
いつもはそんな父だけど、私は今日ほど父がかっこいい!と思った事はなかった。
きっと娘も同じだったと思う。

父は私たち親子に、大きな勇気と希望を与えてくれた。
だから、私たちも父の様に、一歩出せなくても前を見よう。
何歩も後退してもいいじゃない。
だって、後退しているって言うことは、立っているってことなんだもん。
「立っている事」が素晴らしい事なんだって・・・分かっているようで分かっていなかった。

 


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